社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった(講演会 全記録)*春の限定 特別公開
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●千葉高大
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そろそろ新人を迎える時期ということで、ピッタリな講演会記録を期間限定でお届けします!
あっ、「ノビタランド」は出てきませんので期待してみてくれた人、ごめんなさい。
それにしても、見返して見るとかなり長くなってしまった・・・けどヒントが満載やから全部出しちゃいますね。
みなさん、こんにちは。ただ今、ご紹介にあずかりました、『 社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』 という本を書いています、香取貴信と申します。
今日は、 私が東京ディズニーランドの中で体験したお話を進めさせていただ こうと思っています。見てくれどおり僕はバカなので、 あまり難しい話はしませんので、 楽にして聴いていただければと思います。
東京ディズニーランドで働くようになったきっかけ
まず最初に、 私が東京ディズニーランドで働くことになったきっかけのところか らお話をしたいと思います。その前に、 東京ディズニーランドに行ったことのある方はどれぐらいいらっし ゃいますか? ちょっと手を挙げていただけますか? ありがとうございます。たくさんの方が・・・、 ありがとうございます。
私が働いていたのはちょうど4周年の頃からです。 4周年の頃から11周年まで、8年間ぐらい働いていました。 どんな所を担当していたかというと、 主にアトラクションを担当していました。 みなさんがご存知だと思うのは、ジャングルクルーズだとか、 シンデレラ城ミステリーツアーだとか、あとはイッツ・ア・ スモールワールドとか、 主に乗り物に乗せるお兄さんとかをやっていました。
ちょっとどんな感じでやっていたかという雰囲気だけでもやってみ ようと思います。 ジャングルクルーズってみなさんご存知ですよね。 ちょっと覚えていないかもしれないので、途中、 つっかえたらすみません。こんな感じでやっていました。
「いや~、お待たせしました! 青い空、白い雲、やってまいりましたみなさんの下、アマゾン・ アニー号の到着です。あらためまして、みなさん、こんにちは~! 」
(会場)「こんにちは・・・。」
「う~ん、こんにちは。ジャングルクルーズへようこそ! 私がこのアマゾン・アニー号の船長、香取です。 これからみなさんを危険がいっぱいのジャングルへ御案内します。 そう、何が起きるか分からないのが・・・ジャングル。 二度と戻ってこれないかもしれない。そこでほら、 後ろを振り返ってください。 私たちのためにたくさんの見送りの人たちが45分も並んでくれて います。一緒に見送りの人たちに手を振ってお別れしましょう! いきますよ! 右手を挙げて、せ~の、バイバ~イ! ほとんど無視されました・・・。」
このような感じでやっていました。
今、流暢にしゃべりましたが、実は覚える内容というのは、今、 しゃべったのがナレーションといって台本になるのですが、 約20ページぐらいです。 約10分間ジャングルの中を冒険します。 20ページぐらいの台本を覚えて、自分では完璧なつもりでした。 ですが、 いちばん最初のボートは非常につまらなかったのを覚えています。 なぜかと言うと、覚えたナレーションが全部すっ飛んでしまい、 真っ白になってしまったのです。
お客様を乗せて出発します。 本当は見たものを面白おかしく言わなければいけないのですが、 その面白おかしく言うものを全部忘れてしまったので、 見たまま言っていました。
「右見てください! 象です。鼻長いな~。」
とか、本当に沈み切ったボートで、 非常に苦い経験をしたのを覚えています。
私がディズニーランドで働くきっかけになったのは、 別にたいした理由ではありません。家が近かったことと、 あとは非常に不純な動機なのですが、彼女の一言がきっかけです。 彼女を喜ばせてやろうかなと思っていたのです。
私が生まれた所は東京都の江戸川区という東京のいちばん東の端で 、川を越えたら千葉みたいな、千葉の植民地みたいな所です。 そこで生まれました。あまり治安の良い場所ではなかったので、 中学、高校とずっとやんちゃをしていました。 学校に行く時には学ランも長い学ランに太いズボンで、 おばちゃん用のつっかけサンダルみたいな、 そんないでたちでした。
当時付き合っていた彼女がいて、その彼女とは別れたのですが・・ ・、まあ、そんな話はいいですね。私がヤンキーですから、 当然彼女もヤンキーです。 大概ヤンキーの女の子はディズニーとかキャラクターが大好きなの です。高校に入学してから、いつもいつも、 ディズニーランド行こうよ、ディズニーランド行こうよ、 と誘われるわけです。 学校に行くよりはディズニーランドに行った方が楽しいかなと思っ ていて、 学校をさぼってよく二人で単車でディズニーランドに出かけていま した。帰る時にいつも彼女が
「また今日もミッキーと写真が撮れなかった。」
と言うのです。一緒に来ているわけですから、 なんで俺じゃなくてミッキーなんだと思っていました。
みなさん、どうか分からないのですが、 私が東京ディズニーランドに最初に行った時の印象というのは、 一言で言うと「気持ち悪い」というものでした。
なぜかと言うと、 行った方はご存知でしょうが、例えば困っていたり、 地図を広げてどこか探していると、 スタッフが寄って来るわけです。
「こんにちは、どちらかお探しですか?」
金をとられるんじゃないかと思ったりしました。あと、 写真を撮ろうとしていれば、
「撮ってあげますよ。」
いいよ、気持ち悪いなという感じでした。
人に親切にされたり、 自分も親切にしたりということがあまりそれまでありませんでした 。目と目が合えば、ニコッと笑って「こんにちは!」 と言われるような場所にいなかったのです。どちらかと言えば、 目と目が合えば「てめぇ、何見てんだ!」という、 そっち側にいたので、どうしてもあの雰囲気に馴染めなかったし、 何か気持ち悪いというのが実は私の第一印象です。
学校に通っていた時、 たまたま駅にディズニーランドのアルバイト募集広告が出ていたの です。またうまいキャッチコピーなのです。「 魔法の王国の大募集」と書いてあって、 ミッキーがお城を指差しているのです。下に「高校生可」 と書いてあったので、だったら俺、バイトできるようになったし、 新しい単車も欲しいし、それじゃあバイトするか、 と面接に行きました。
東京ディズニーランドの採用面接
ちょっとレジュメからそれてしまいますが、 面接に行って非常にびっくりしました。 こういう大きなホールを使っての面接になっているのですが、 面白いことにその面接会場自体がディズニーランドそのものなので す。だから気持ち悪い印象がそのまま続いていました。
「こんにちは、香取さんですね」
とニッコリ笑って言ってくれるのです。それまで僕は名前に「 さん」づけで呼ばれたことがあまりありませんでした。「おい、 香取!」「はい!」というように呼ばれていましたから、 まずどうしてこの人は俺のことを知っているんだ、 それから初対面なのに俺の名前を知っているということにすごくび っくりしました。後で考えてみれば、 履歴書とかがそこにありますから分かるのですが、 でもそれを感じさせないのです。
「じゃあ、こちらへどうぞ」
と通されます。会場に入っていくと、 会場全体がディズニーそのものです。普通の壁です。 普通の壁なのですが、そこに何気ないですが、 パークの写真が貼ってあるのです。一貫性があり、 全部お客様にスタッフが対応しているところの写真なのです。 これは後から分かりました。 その当時は何かディズニーっぽいなと思っていました。
そして面接が始まります。この面接がすごく面白いのです。 いろいろ根堀り葉堀り聞かれるわけです。 自分が面接官になった時に、なるほどな、 だからあの時あんなことを聞かれたんだとよく分かりました。
どういうことかと言うと、 まずディズニーランドで面接をするときにどういう基準で採用する かというと、面接をする私たちが、今目の前にいる、 これからスタッフになるかもしれない、 これからキャストとして一緒に働くかもしれない彼、 彼女と話をしながら、 この人と一緒に働きたいかどうかよく考えなさいと教えられます。
思い返してみると、自分も根堀り葉堀り聞かれながら、 でもあまり答えていなかったような気がします。
この人と一緒に働きたいなと思ったらそこから合格になります。 面接官は、この人と働きたいと思った瞬間からは、 今度は面接官ではなく、 一緒に働く先輩としてディズニーのルールを説明しなさい、 そして確認しなさいと教わります。
どういうことかというと、先程もお話にありましたが、 東京ディズニーランドという所は「夢と魔法の王国」 というテーマがあります。 このコンセプトをすごく大事にしますから、 その中でこのコンセプトを維持するために、 後でお話しするディズニーマジック、 お客様の夢を壊さないというルールがあります。 それは身だしなみであったり、出勤体系だったり、 いろいろなルールがあります。それを先輩として、
「実は香取さん、ディズニーランドにはこんなルールがあるんだ。 これって守れる?」
と確認していきます。
思い返してみると、その瞬間は僕もむかついていました。 だって聞かれるわけです。
「香取さん、今、髪の毛リーゼントだけど下ろせる?」
「あ、はい・・・。」
とか、
「じゃあ、もう眉毛は抜かないでね。」
「うっせえな、分かりました・・・。」
とか、 そういうような感じでどんどんルールを説明されるわけです。
OK、OK、全てOKになった時に、
「よし、じゃあ一緒に頑張ろう!」
と握手をします。こんなふうに面接します。
振り返ると、見てくれはちょっと変でしたが、 こいつと一緒に働きたいなとその面接官の人が感じてくれたのかな と、今では感謝しています。
逆に、この人とはちょっと、と思う場合、 不合格を決める場合はどうするかというと、 そこはディズニーっぽいと思います。 そこからはお客様として接しなさいと教わります。 何かの縁でディズニーランドで働こうと来てくれたわけですから、 そこで悪い印象を与えてもしょうがないので、 この人とはちょっとな、と思ったら、パークでまた会えるように、 お客様として接しなさいと教わります。
ですから私たちは具体的には、しゃべりながら
「実はね、 今度は東京ディズニーランドではこういうイベントがあるんですよ 。このイベントはこうでね、 こういうアトラクションもオープンしますよ。じゃあまた是非、 今度4月にイベントが始まりますから、遊びに来てくださいね。」
なんて言って、最後は出口の所まで一緒にお見送りします。
「じゃあ、またパークで会いましょう。」
と言って気持ちよく帰してあげましょう、 これはパークでやることと一緒です、と教わります。
こういうふうにして面接を受けたわけです。今、 僕が受けたらきっと不合格になると思います。 僕が働いている時は人が足らなかったというのもあると思いますが 、かろうじて、うまくアルバイトに合格することができました。 そこから働き出すのですが、 非常にびっくりすることが多かったです。
☆ 誰にでもできる当たり前のことを徹底的に行う!
「Disney Magicの真髄」
私たちが東京ディズニーランドで働く中ですごく大事にしているミ ッションがたった一つあります。 私たちはなぜ東京ディズニーランドで働いているのか。 私たちがお客様に与えるミッションは、今、 目の前にいらっしゃるお客様が、パークを出る時に、振り返って
「今日は楽しかったね。ディズニーランドに来て良かったね。 また来よう。」
と言ってもらえたら、それが私たちの幸せなんだ、 東京ディズニーランドのスタッフの喜びなんだよということを教わ りました。その一つだけです。
売り上げ、その他はどうなるのか。それはあくまでも結果だよ、 と教わります。お客様が、本当に今日来て良かったね、 また来たいねと思ってくれたら、 必ず売り上げも横についてくるはずだと考えているのです。
お客さまが喜んでくれて、 また来たいと思ってくれるようなミッションを遂行するために、 ディズニーマジックといって、お客様の夢を壊さないように、 夢を持ってもらえるように、 幸せになってもらえるようにと徹底していることがいくつかありま す。それを僕が初めて見たときにすごくびっくりしました。 それまでは集合研修でそういうことを教えられていましたが、 後ろの方で腕を組んで聞きながら、
「何言ってんだよ、バ~カ! そんなこと言ったって、現場でできるわけねぇだろう!」
とか、 そんなふうに思っていました。 それを僕ら従業員も求められていますし、 当然会社もその環境を維持するためには全力を尽くしている。 全ては一つの目標に向かってやっているということがだんだんと理 解できるようになってきました。 そのいくつかをお話ししたいと思います。
開園当初のパークより、20周年を迎えた今の方がキレイな秘密
もうご存知の方もいらっしゃると思いますが、 昨年の4月15日で東京ディズニーランドは20周年を迎えました 。僕も遊びに行きましたが、 ディズニーランドはできてからもう20年も経っているのです。 営業をしていない日は1年のうちで3日とか4日ぐらいしかありま せん。2月の半ばに休みますが、20年間、 それ以外はずっと営業しています。
びっくりするのですが、 建物そのものが全て20年経っているわけです。 しかし20年経っているとは思えません。 自分が働いていた時と同じような感覚なのです。 全然変わりません。 オープンの時と同じようなパークの環境を維持しています。 そこが自分の中では、すげぇなと思いました。
なぜそれがそういうふうになるかというと、 種明かしになってしまいますが、 一つにはお掃除が徹底されています。多分ご存知だと思いますが、 パークの中でどんなふうにお掃除をするかというと、 当然お掃除を専門に行うカストーディアルというスタッフがいます 。その他に夜中のお掃除があります。初めてそれを見たとき、 ちょっとびっくりしました。
どういうふうにお掃除をしていたかというと、 パークが10時で閉園します。お客様がいなくなりました。 そうしたら当時で多分500人ぐらいの人たちが入っていたと言っ ていましたが、夜のお掃除の人たちが500人、 パークに入ってくるのです。
この人たちは何をするか。 いちばん最初にやることは、みんな肩越しにホースを持っていて、 それをいきなり散水栓、水道の蛇口にパッとつないで、 あの広いパークの中を全部丸洗いするのです。そして次の日の朝、 オープンを迎える前までに全部きれいに拭き上げます。 地面も建物もそうです。
最初に僕がそれを見た時に、ちょっとやり過ぎだろう、 バカじゃないかと思ったのはどうしてかというと、 それを1ヶ月に1回とかではないのです。毎日やっているのです。 毎日、毎日、毎日、毎日・・・、ずっとやっているのです。 まず水がもったいないというのと、 人はそんなに遣っちゃいけないんじゃないかとか、 これは絶対赤字だと思っていました。赤字の意味も知らないのに、 そんなことを言っていました。 それを先輩に聞いたことがあります。
「先輩、どうしてこんなに掃除を徹底するんですかね。 別にいいじゃないですかね、こんなふうにしなくたって・・・。」
なぜ僕がそれを言ったかというと、 いちばん最初にやった仕事というのがパレードのゲストコントロー ルという仕事でした。どういう仕事かというと、 パレードが来る前に、お客様にパレードをご覧いただくために、 ここに座って見て下さいとロープを張ったりするような仕事だった のです。今でこそ、
「すみません、パレードを観る方、座っていただけますか?」
と言うと、ゴザを持ってきて座ってもらえるのですが、 私がやっていた4周年の時は、
「すみません、座ってもらえますか?」
と言った時には文句しか言われません。
「お前、ふざけんな! お客様を地面に座らせるってどういうことだ、このやろう!」
「でも、はい、すみません。座ってもらえますか・・・?」
みたいな、そんなふうに言っていました。
そこで本当は言いたいのです。
「お客様、大丈夫です。毎日水洗いしていますから、 座ってもらっても大丈夫です。」
と言いたいのです。言いたいのですが、 これは言ってはいけないのです。 そうするとお客様は現実に帰ってしまうというのです。
「だからそれは言わないで。 だけどお客様に安全のために座っていただくようにお願いをしてね 。」
それは無理ですよ、というような感覚でした。 ですからそれを初めて見た時に、お客様にも言ってはいけない、 だけど毎日洗う。バカじゃないかな。本当だったら、「 毎日洗ってますよ、毎日洗ってますよ」 と言って回りたいぐらいですが、言ってはいけないのです。
それを先輩に聞きました。そうしたら先輩が
「確かに香取が言うとおり、 同じようなことがオープン当初あったんだ」と教えてくれました。
「いくら何でも毎日というのはやり過ぎじゃないですか?」
そうしたらアメリカのトレーナーが言ったそうです。
「確かにそうだ。確かに君たちが言うように、 営業中もたくさんのお掃除の人たちが箒とチリトリを持っているか ら、パークが閉園した後、 お客様がいなくなった後もゴミ一つ落ちていない。
翌日、 赤ちゃんを抱いたある家族が来ました。 何かの拍子にその赤ちゃんがパークの中でハイハイをした。ここ( 手のひら)、切れちゃわないか? 手を怪我してしまうよな。
だとすると、その赤ちゃんの思い出は、 ディズニーランドに行った時に怪我をしてしまったという思い出に 変わってしまう。その家族もそう。 それは僕らがやろうとしている、 来てくれたお客様に幸せになってもらおう、 夢の世界を感じてもらおうということにならないよね、 いきなり現実になってしまうもの。
シンデレラのゴールデンカルーセルの秘密
その他にもお掃除の中で面白いのが、 シンデレラのゴールデンカルーセルというのがパークの中にありま す。馬が90頭います。そこもお掃除をするのですが、 どういうふうにお掃除をするかというと、 馬にお客様が乗った時に掴む棒があります。 金の棒がついています。
金メッキかなと思っていたら、 実は真鍮なのです。真鍮でできていて、それが90本あります。 真鍮でできているとどういうことがあるかというと、 お客様が手で握るので営業が終わると真っ黒になってしまうのです 。
かわいそうだなと思いますが、担当になった人は、これを一人、 夜中、 翌日の朝までにピカルという薬剤を使ってピカピカに磨き上げるわ けです。そして指紋一つない状態にしていくわけです。
最後、クオリティのチェックがあります。 そのクオリティのチェックに合格しなければパークはオープンしな いというふうに、そこまで徹底しています。
ですからピカピカに、 指紋一つないぐらい、どのレベルかというと、 ディズニーランドがグランドオープンした時と同じ状態に戻しなさ いと言われます。
「なぜそこまでするのですか?」と言うと、
「それはお客様の信頼を得るからなんだよ。
だって、 考えてごらん。例えば君たちが十年前に観た映画を、 もう一回家に帰って、 ああ懐かしいなと思ってビデオを見たとしよう。
と言うのです。
要するにディズニーのトレーナーたちは映画を基本にして物事を考 えるので、あのパークの中は映画と一緒だというのです。
「お客様の中にはシンデレラの物語を見て育った人たちもいる。 自分がシンデレラになったかのようにして気分を楽しむでしょう。 だから映画の中に入っていることと一緒なんだ。 それがせっかく来たのに、 10年経っているから10年分ぶっ壊れてるなとか、 ボロくなっているなと思ったら、その気分に浸れないよね。 だから徹底するんだ。これが必ずお客様の信頼を得ることになる。 」
と言っていました。そこまでポリシーを持ってやっています。
実際、清掃の他にも整理整頓とか、耳にタコができるくらい、 非常にうるさく言われました。使ったものは必ず下に戻すとか、 バラバラにしないというようなことをすごく言われました。 それも同じです。
ちょっと余談ですが、 僕の同級生が自動車の整備工場をやっています。 そこに自分の車を車検に出しに行ったのです。その時に、 あのトレーナーが言っていたことは本当だなと思いました。 ちょっと悪い例えですが、その工場に車を持っていったら、 非常に預けたくないような工場だったのです。
壁とかがオイルなどで汚くなっているのはいいのです。 油とかで汚れているのはしょうがないと思います。ただ、行って、
「どこに入れるの?」
「そこ、ちょっと入れておいて。」
と言われて、分かった、と入れようと思った。 その入れようと思った所が本当に散らかっていたのです。 工具はバラバラ、オイルの缶はそこら辺に置いてあるは、 ダンボールの箱はへこんでいるはで、おいおい、俺の車、 ここに出して大丈夫かとやはり思います。
そうしたら、 自分の大事な車ですから、 やはりこんな所に出さない方がいいよなと。そうなると、 やはりそこでの信頼関係、信用は見た目で判断されてしまいます。
ですからアメリカのトレーナーたちが言っていたのは、 多分そういうことなのだろうなと思います。 パークがどんなに年数が経とうともグランドオープンと同じような 状態を保つことで、やはりお客様の信頼を得るのです。 そこでまず一つ感動が与えられるのではないかと思います。
サービスは掛け算
私が自分の上司から聞いたことで、 すごく印象に残っていることがあります。 白さんというちょっと面白い上司がいました。 その上司から言われたことがあります。
「香取ね、サービスって掛け算じゃないかなと思うんだよね。」
と言われたのです。突然だったので、
「何言ってるんですか? 何が掛け算なんですか?」
「いや、例えばお客さんが遊びに来るでしょう。遊びに来て、 いろいろな所で点数をつけるわけだ。さっき言ったように、 パークの中が非常に清潔で、 例えば10年前に来た時と同じような状態、 それとパンフレットで見たのと同じだというような状態、
イコール、 東京ディズニーランドの本日のサービスは何点でしたかね、 とすると、俺は合計を出すのは掛け算だと思うんだよね。」
「別にいいじゃないですか。10点、10点、10点・・・ だったら足し算の方がいいんじゃないですかね。」
と言ったら、
「いや、そうじゃない。だって、考えてごらん。人間、 嬉しいことがちょっとずつちょっとずつあって重なってくると、 足し算よりも倍に倍に膨れていくような気がしないか。」
と言うのです。
「それは白さん、あまりにも強引じゃないですか。」
と言ったら、白さんが言いました。
「じゃあ、香取ね、反対で考えてごらん。例えば10点、10点、 10点・・・とくるね。どこかで0点だったら合計何点だよ。」
「0点ですね。」
「うん、そういうことだ。 だからたった一ヶ所でもどこかで手を抜いてしまったり、誰かが、 俺が手を抜いてもわからねぇか、と言って手を抜いてしまったら、 それは必ずばれてしまう。そこで0点がかかってしまったら、 その思い出は0点になっちゃうんだよね。
と教わりました。
ですから多分、さっきお話しした夜のお掃除の人たち、 非常に大変だと思います。海沿いだし、めちゃめちゃ寒いのです。
ディズニーのルールにはたった一人の例外もない
僕はそれを横目で見ながら、 厳しいルールなどは結構ありましたが、なるほどな、会社、 ディズニーが言っている、「お客様のために。 お客様を第一に考えるんだよ。 だから僕らはこういうルールを決めたんだ。 みんなでこのルールを守ろうね」と言っていることが、 自分だけではなく、結局全員で同じことを守っているんだな、 全てたった一人の例外もないんだなと思いました。 だからこそアルバイトをしていて、 すごく働きやすい環境ではありました。 誰一人例外を作らないということです。
一つ面白い話があります。働く上でのルールの中で、 ディズニーランドに出勤する時にIDカード、 通行証を持たされます。 この通行証がないとディズニーランドの中に入れません。 出勤できないのです。これはルールなのです。 いつでもそのIDカードを持っていなければいけない。
初年度の頃、ある部の部長が出勤してきました。 入り口に立っているのはアルバイトの、 セキュリティという警備のスタッフです。チェックしていました。
「おはようございます。」
と言いながら、みんなIDカードを見せて入っていきました。 その部長が通った時、
「やばい、ない。ごめん、俺、 ちょっとIDカードを家に忘れてきちゃった。」
と言ったそうです。そうしたらそこにいたスタッフが
「そうですか、分かりました。じゃあ、取りに帰ってください。」
と笑顔で言ったそうです。そうしたらその部長が、
「いやいや、ちょっと待ってくれ。君は俺のことを知らないのか? 」
たまたまその部長のセクションの子だったのです。
「いえ、知っています。よく存知あげています。でも、部長、 一応ルールになっていますから・・・。 みんなで守ろうというルールになっているので、ごめんなさい、 通すことができないのです。」
「そうか、分かった。内線貸せ。」
と内線を借りて、
「ごめん、今、入り口でIDカードを忘れて止められている。 家に帰るから2時間遅刻する。」
と、 その部の庶務の女の子に電話をかけたというような話がありました 。
ですから全員で決めたルールは、 誰一人の例外も出さずにみんなで守るというのをすごく徹底してい る組織でもありました。
ですから自分にとってストライクゾーンがどこなのか、 非常に明確でした。このルールを守って、 あとはお客様に感動していただいて、また来たいと思えるように、 自分の役割の中で100%やる。 そのストライクゾーンがアルバイトにもはっきり見える会社でした 。
ですから僕もそうですが、卒業した人間の中で、 東京ディズニーランドでアルバイトをしていたり、 お仕事をしていて辞めた人の中では、 多分愚痴や文句を言う人はいないと思います。
会う人、会う人、「 ああ、良かったよ。こんなふうなのがあってね・・・」 と言うのではないかと思います。 やはり働いていてすごく気持ちの良い職場であったことは事実です 。ですから8年間もアルバイトしてしまったのです。 その中でいろいろなことを教わったので、 今ではすごく感謝しています。
「誰にでもできる当たり前のことを、 誰にも負けないくらい徹底的に行うこと」
さっき言ったようなディズニーマジックがいろいろあり、 徹底していくその姿勢があるのですが、ポリシーを持って、 こだわりを持って徹底することで、 やはりお客様の信用を得ていくのです。
でもこれは決して難しいことではありませんでした。 誰にでもできる、当たり前のことでした。 お客様とお話をする時には目と目を合わせて話そうねとか、 普通に、ディズニーランド以外でも人として大事なことです。「 こんにちは!」と挨拶しようよとか、 本当に当たり前のことなのです。それを多分、 どこにも負けないぐらい、 全員で徹底しているというのが東京ディズニーランドの強みなのか なと思います。
やっていることは難しいことは何もありません。 こんなバカでもできます。本当に当たり前のことを、 徹底してみんなでやっていく。 そして決めたルールを全員で守るということを徹底していました。
☆マニュアルを超えるサービスの実現は、従業員の使命感から!
働いている中で、高校1年生の時からですから、 最初は学校の延長みたいなノリで働いていたのは事実です。ただ、 このお仕事の意味とか、ディズニーランドで自分が働く意味とか、 楽しさとか、そういうものをどのようにして得たかというと、 エピソードがいくつかあるのですが、 今日はその2つぐらいをお話ししようと思います。 これが自分を変えるきっかけになりました。
本当にお客様を大切に思うなら
お盆にディズニーランドに遊びに行った
まず1つは、自分がちょうど高校3年生ぐらいの頃でした。 アルバイトを始めて3年間経っているので、 当然組織の中ではお山の大将的です。「よし、お前ら、右向け!」 と言ったら全員右を向く。そういった感じの時でした。 ちょっと間違ったプライドを持っていました。
ある時、ちょうど夏休み前ぐらいですか、 3年間働いてくれたので、 ということでディズニーランドから従業員用のパスポートを2枚い ただきました。これを貰って、誰を誘って行くかな、 とか考えていました。 そうしたら友達がまた悪知恵を吹き込んでくるのです。「おい、 香取、知ってるか? この従業員用のパスポートな、どんなにパークが混んでいて、 パークの中に入れない時でも、これは入れるらしいぞ。」
と言うのです。僕もバカですから
「そうか、だったら、 すげぇ混んでいる時に入らないともったいないな。」
とか言って、よせばいいのに、 混んでいる時はいつだという話になりました。忘れもしないです、 夏休みのお盆の時に、 ちょうど休みが重なった4人で遊びに行きました。
半信半疑だったのです。入れるかな、 とドキドキしながら行きました。 入り口に行くとやはり入場制限をしていました。 東京ディズニーランドというのは、 消防法上6万5千人以上の人は中に入れないのです。 ですからパークの中の人数が6万5千人を超えそうになると、 当日券の発行をストップします。事実上入場制限となります。
みんな周りで断られているわけです。 かわいそうだなと思いながらも、でも、 俺はちょっと違うよと思いながら入って行きました。 そうしたら入れてしまったのです。 多分今はもうそんなことはないと思いますが、 当時は入れてしまいました。入れてしまったことで、 また調子づいてしまうのです。
「やあ、俺たち従業員で良かったな。」
とか言いながら入りました。
パークの中、6万5千人だとどれぐらい混んでいるかというと、 一番人気のアトラクションで2時間待ちぐらいの時でした。 そこは働いているので、知恵がついています。 どこに行けば何が空いていて、 この時間だったらどこどこのレストランだったら穴場だよとか、 パレードだったらいちばん前で見るのに、 ここだったらこの時間に行けば座れるとか、 そんなことは百も承知ですから、調子よく遊んでいました。
よせばいいのに、 またパレードもいちばん前で見ようということになりました。 なぜパレードをいちばん前で見るかというと、 別にパレードを見たいわけではないのです。 だって仕事で毎日見ていますから・・・。 だけどなぜパレードを見ようと思ったのかというと、単純に、 知っている奴らが働いているので、俺、 今日ここにいるとそいつらに見つけてほしいのです。 そして声をかけられると嬉しいのです。
なぜかというと、 周りにいる一般のお客様と俺は違うよということを感じたかったの です。本当にバカなんですけどね・・・。
そして座っていました。「何々ちゃ~ん!」とか言って、 責任者の人もいました。その日は無事終わり、帰りました。
その翌々日ぐらいですか、お盆のちょうど土曜日でした。 パークはすごく混んでいました。私はパレードの仕事をしていて、 その日は仕事だったのでポジションに入っていました。 パレードが7時半からスタートするのですが、 2時間前ぐらいからポジションに立っています。 2時間前ぐらいから座ってスタンバッている人たちがいるのです。
パレードが始まる15分前になった時、 突然大雨が降ってきました。その雨が止まないのです。 みなさん2時間も前から座って待っているので、 最初は傘をさして頑張っていました。だけど雨が降り止まず、 びしょびしょになってしまうので、 みんな席を立って移動し始めました。 僕らはパレードが始まるのか、 始まらないのかとドキドキしていましたが、 いよいよ始まるという時間帯に中止が決定しました。
そうすると私たちはどうするかというと、 それをお客様に伝えに行きます。言葉では、
「ごめんなさいね、今日、 雨が降っちゃったのでパレードが中止になってしまいました。」 お客様は肩を落されて、口々に
「何だよ、せっかく待っていたのに・・・。」とおしゃいます。 でも雨だから仕方がない。僕も後ろ盾がありました。 雨だから仕方がないでしょう、文句を言われても仕方がない。
7時半に中止が決定しましたから、 15分ぐらいインフォメーションをして自分の所に帰ってきました 。自分自身もちょっと嬉しい、 嬉しいといっては語弊がありますが、雨が降ると早く帰れるので、 早く帰れてラッキー!というのはちょっと心の中にありました。 今はありませんが、昔はありました。
雨が降ってきて、中止が決まって、 いつもだったら勤務解消といってその時間に帰ることができたので すが、その日だけ、責任者の町丸さんというすごいおっかない人が
「みんな、ごめんな。本当はここで勤務解消なんだけど、 通常どおり21時までの勤務でいいか?」
と言い出したのです。「なんだよ、 みんなで遊びに行く約束してたのによ~」、とか思っていました。
「なんでかというと、 ちょっとみんなに聞いてほしい話があるんだ。 だから勤務を延ばしてほしい。」
ということで、 みんなでトレーニングセンターという所に行きました。 みんな座らされて、80人ぐらいいましたが、 そこに座って話を聞いていました。
そうしたらいきなり町丸さんが話し出しました。「みんなさ、 今日、雨がふっちゃっただろう。 すごくたくさんの人たちがいたよな。本当はパレード、 やってあげたいと思わないか?」
と話し出すのです。いつも怖いのにそんなふうに話し出したので、 僕はいちばん後ろに座りながら、やばい、 良心に訴えてきたと思いながら、 絶対に渡さないぞと思っていました。
黄色いアルトのお客様
「どうして俺がこんな話をするかというと、実はこの間、俺、 早番だったんだ。朝、5時ごろだったかな、 パークの前を車で通ったんだ。 まだ駐車場がオープンしていないから、 今日入ろうとする人たちの車がずっと列をなして待っていたんだ。 入り口から渋滞している。ちょっと気になったから、 どこら辺から来ているのかなと思って車を降りて、 こうやってナンバーを見てったんだよ。そうしたら、 どんどん前に行くにしたがって、遠い所、 遠い所のナンバーになっていくんだよね。 いちばん前のナンバーを見てびっくりしたよ。 みんなどこだと思う? 想像もつかないぜ。」
と言いました。
どこだろうと思って聞いていたら、
「いちばん前の車はな、鹿児島ナンバーだ。みんな、 鹿児島って分かるか? 千葉がこの辺だったら、鹿児島はこの辺だぞ。さらに驚くのは、 その鹿児島ナンバーの車は黄色いアルトなんだよ。」
と言うのです。今から16年ぐらい前の話です。 アルトというのは軽自動車です。 16年ぐらい前の軽自動車はすごく小さいじゃないですか。
「まさかと思ったんだよね。だけどさ、俺、 こうやって運転席を覗いたんだ。そうしたら、 これは運転してきたんだと確信したね。こうやって覗いたらさ、 運転席でお父さんが死体のように寝てるもんね。動かないんだ。 でも、と思って助手席に回ったらお母さんたちが起きていたから、 窓をコンコンとやって、 失礼かと思ったんだけどちょっと確かめようと思ったんだ。
『 おはようございます。私、 東京ディズニーランドの町丸と申します。 朝早くからごめんなさいね。ちょっと気になったものですから・・ ・。お客様のお車のナンバーは鹿児島ナンバーですけど、 もしかして・・・』と聞いたんだ。そうしたら、お母さん喜んで、 待ってましたとばかりに話してくれたよ。」
よくよく話を聞いたら、お父さんのお仕事というのは、 お盆とかみんなが休めるような時にまとまってお休みをとれるよう なお仕事じゃないそうです。 でも今年に限ってはお盆の直前になって、「今年はお盆、 休んでもいいよ」と言われたらしいのです。 それで家族会議があって、どこに行こうということになりました。 そうしたら子供たちがディズニーランド行きたい、 ディズニーランド行きたいと言ったから、 ディズニーランドに行こうと決めたということです、
「おれ、それを聞いてびっくりしたよね。 そんなに遠い所から来るなんて思ってもみなかったんだ。」
と言うのです。
「だって、丸々2日間かけてだぜ。みんな、 車を運転したことがないから分からないだろう。すごい大変だぞ。 でも子供たちのために、と思って来るんだよな。 多分その人たちは、その日朝から入って閉園、 10時まで遊ぶんだろう。お土産を買って、また車に乗って、 お父さんとお母さんが交代交代で鹿児島まで帰って行くと思うんだ 。
今日も雨が降ってパレードが中止になっちゃったけど、俺さ、 その黄色いアルトの人たちが今日もいたんじゃないかなと思ったん だよ。
そうしたら、雨でもいいからパレードやれって思わないか? 」
そう言われたら、そりゃそうだとなりました。正直言うと、 それまでというのは、今、目の前にいる人がどんな思いで、 どこから来たかなんて関係なかったのです。というか、 考えてもみませんでした。
子供に嘘をついたお客様
その話が終わったら、 すぐに生重さんというもう1人の責任者が話し出しました。
「俺も遅番の時、同じことがあった。おれは遅番の時、 従業員駐車場に車を止めたんだ。 そこから外周を歩いて出勤するだろう。」
従業員駐車場というのはディズニーランドの真裏にありました。 もう今はありませんが、 今のディズニーシーの入り口辺りの所です。車で来た人は、 そこからてくてくと外周を歩いて出勤するのです。 入場制限をしているような時というのは当然駐車場もいっぱいにな ってしまいます。いっぱいになったらどうするかというと、 お客様の車を従業員駐車場に回します。 そしてそこに停めたお客様は、 外周をてくてく歩きながらパークに来るのです。
チケットを持っていれば入れるのですが、 チケットを持っていない人は入れません。 だから生重さんが出勤していく時に、 家族の会話が聞こえるんだよと言うのです。
「今日、やっぱり混んでるよね。どうしよう、 やっぱり入場制限とかしてるんじゃないの?」
「でもさ、ここまで来たから、 とりあえず入り口まで行ってみようよ。」
そんな話をしながら歩いている。いつも生重さんは心の中で、 頼むから今日は入場制限しないでくれ、しないでくれ、 と思いながら出勤するのだそうです。
「だけど、断られて帰ってくる人たちがいるだろう。 きっと断られて帰ってきたんだなって分かるんだよね。
そして見ていたら、 入れないと分かってからのお父さんとお母さんの反応が実は2種類 あることが分かった。入れないと分かった瞬間に、 子供に説明しなければいけないでしょう。だから1つは、 子供に正直に話す。」
「貴信ちゃん、ごめんね。ディズニーランド、入れないだって、 混んでて・・・。」
「なんで、入れないの?」
「しょうがないじゃん、混んでるんだから・・・。」
「やだやだ!」
「やだなんて言ったってしょうがないでしょう!」
と正直に言う。
もうひとつは、すごく辛かった、 ショックだったんだと言うのです。もうひとつのパターンは、 入れないと分かった瞬間に、お父さん、 お母さんが子供たちに嘘をつくというのです。 どういうことだろうと思って聞いていました。 生重さんが言うには、入れなかったと分かった瞬間に、子供に
「貴信ちゃん、ママ、入り口間違えちゃったみたい。ミッキーね、 こっちじゃないんだって。ミッキーさん、あっちにいるんだって。 」
「本当?」
「本当だよ。だからミッキーさんの所行こうか?」
「うん。」
「じゃあ、行こう。ミッキーに会いに行こう!」
と言って元来た道を帰る。
「いるわけないんだよ。元来た道だから、 行ったってミッキーなんかいない。従業員駐車場だもの・・・。 真夏の暑い中、せっかく入り口まで来て入れない。 でも子供たちに本当のことを言ったら、 子供たちが残念な思いをしてしまう。 だから子供たちを諭すんだよな。俺もそうだと思う。小さい頃、 嘘をついちゃいけませんよと習わなかったか?
俺も習ったよ。嘘をついちゃいけませんよと言っているお父さん、 お母さんが嘘をつかなきゃいけない気持ちって、 みんな考えてみて。」
僕はそれを聞いてすごくショックでした。 自分はパークの中で働いていたので、 パークの中である出来事しか知りません。ですが、 パークの外ではそんなドラマがあるということを考えてもみなかっ た。想像もしなかったのです。
さらには、今、 目の前にいる人がどんな思いでいるか、 きっと自分のことで考えれば分かるはずなのに、 考えもしませんでした。自分も小さい頃、 どこか遊びに連れて行ってくれる、この日、 海に行こうとかいったら、もうカレンダーに○をして、 当日は車に乗る前から海パンをはいて、浮き輪を膨らませて・・・ 、それぐらい喜んでいました。 そんなドラマがあるなんて思ってもみませんでした。
本当にお客様に感動を与えるには
その時生重さんが、
「そうやって嘘をついて帰る親子4人がいる中で、この間、 4人で楽しそうに遊びに来てた奴ら、お前ら、立て!」
やべぇ、きた・・・。
「もう、頼むよ。香取なんか家が近いんだから、 いつだっていいだろう。なんで混んでる時に来るんだよ。」
とすごく言われました。
「お前ら4人入らなかったら、さっき嘘ついた4人、 入れたんだよ。」
そんなことはないと思いながら聞いていましたが・・・。
その時生重さんが僕らに訴えていたのは、仕事とか、 ディズニーとか超えたところで話をしてくれました。
「香取たち4人ね、俺たちはディズニーランドで、 人に親切にしようとか、 お客様のためにとやることがこんなに楽しいことだと教えてもらっ たよな。だろう?
なんでそれがコスチュームを脱いで、 名札を取るとそうやってできなくなっちゃうんだ?」
まさにそのとおりだと思いました。
「お前さ、金を貰っているからやるのか? それって本当にサービスなのか? コスチュームを着て、ネームタグをつけていて、 現場に出ている時には、お客様が困っていたら『 どちらかお探しですか?』と言える。 だけどそれから一歩外に出て、 舞浜駅や東京駅で困っている人がいる。おじいちゃん、 おばあちゃんが重たい荷物を持って階段を上がろうとしている。 でもお前、手伝わないだろう? それって本当にサービスか? 違うんじゃないのか? 俺たちはもっと誇りを持たなきゃいけないんじゃないのか?」
と言われました。
多分生重さんがあの時訴えたかったのは、 ディズニーランドがどうこうとか、 働くことがどうこうとかではなくて、 俺たちはディズニーからこんなことを教わっただろう。 だったらコスチュームを脱いでも、 ネームタグをつけなくてもそれをできる人間になろうぜ。 それが本当のディズニーキャストじゃないか。 魂を持つってことじゃないのか、 ということを投げ掛けられました。
振り返ると、自分自身恥ずかしいというのもあるのですが、 困っている人に声をかけたりとか、なかなかできませんでした。 本当にお客様に感動を与えるようなサービスができる人というのは 、多分素の状態でも同じことができるのではないかと思います。 それは多分練習、訓練なのかなと思います。
素の状態で、 元々持っている素性でできる人もいれば、僕みたいに、 元々持っていないですから、そういう人間はどうするかというと、 やはり日々意識してやっていくということでだんだんと変わってい くのかなと思いました。
ある人に言われました。
「 お客様に心からありがとうと感謝される仕事がしたいなと思ったら 、まず最初に、自分の周りにいる家族、親戚、誰でもいい、 自分との関係の近い人に感謝されるように働きかけなさい。 そうしなかったら、 本当にお客様が心から感謝してくれるようなことはできないよ。 分かるはずがないよ。だってそうでしょう。
僕も今、結婚していて母親と同居しています。 今でも母ちゃんに言われると憎まれ口をたたいてしまうのですが、 その度にまずいなと思っています。
「うるせぇ、くそばばぁ!今やろうと思ってたんだよ!」
とか、そんなふうに言ってしまいます。 だから本当に自分のやっているサービスというのはまだまだだなと その時感じました。
そういったことで、東京ディズニーランドの中で、 人間としてもそうですし、ディズニーの考え方もそうですが、 使命感というのでしょうか、お客様のために、 お客様の笑顔のために自分がこれをやらなきゃ、 というものを持つようになりました。
でもやってみると、お客様が喜んでくれてやはり嬉しいのです。 仕事じゃなくても何か自分が関わって、 その関わった相手が喜んでくれたら、結構それが嬉しいです。 プレゼントみたいな感覚です。好きな人に何かプレゼントする。 これをあげたら喜ぶかなとか、 その時にいろいろ想像するわけです。 そしてその人が喜んでくれたら、よかった、 じゃあまた何か考えようとか・・・。 それがお仕事でも現場の中でも同じような感覚でできたら、 きっと幸せなんだろうなと思いました。
クレームがマニュアルを進化させる
ちょっと先程の話の続きになりますが、 私が働く中で使命感を持ったエピソードを先程お話ししました。 あともう1つ、忘れられない自分の出来事がありまして、 それをちょっとみなさんにお話ししようと思います。
このエピソードは、ちょうど私が高校を卒業して、 シンデレラ城ミステリーツアーというアトラクションに配属になっ た時の話です。新しい部署に配属になった時に、 トレーニングを最初に5日間ぐらい受けます。 お客様からいただいたお手紙とか、 お電話でいただいたお客様の声というものがアトラクション別にき ちんとファイルされていて、 そのトレーニングの時間の中にそれを読む時間があります。 それを読んでいた時にあたったエピソードです。
寄せられるお客様からのお手紙、 お客様からの声の約3分の2はクレームと呼ばれるものです。 これは東京ディズニーランドの中では非常に大事に扱われます。 どういうふうな意識になっているかというと、 お客様からいただいたクレームというのは、 クレームがなかったらマニュアルは進化しないと考えています。
自分たちが良かれと思ってマニュアルを作っています。 このような手順でこのようにしたらお客様に喜ばれるのではないか 、 または効率が良いのではないかとマニュアルを作ってやっています 。でもそれをやってもお客様は満足しない。 またはそれをやったことでお客様が不快に思ってしまう。 こんなことがありましたよ、 ちょっとこれを改善してくださいよというような内容です。
そういった内容を受けた場合には、 必ず自分たちの手順を見直します。本当にこの手順、 このマニュアルで良かったのかな、 もっとこういうふうな方法ができるんじゃないか、 とどんどんマニュアルを進化させるのです。
注意をする時には一対一で
あとはスタッフの態度についてのクレームもあります。 あの時のスタッフの態度はこうだった。こんなふうに言われた。 物のように扱われた。そういったものは、 その該当するスタッフと責任者とが二人きりになり、 個室で話をします。
「どうしてこんなふうになっちゃったの? どうだった?」
「実はこうこうで、こうでした。」
「OK、分かった。原因はどこにあると思う?」
と言って、一緒になってその原因を考えるのです。
「じゃあ、そうならないためには、次にどうしたらいいかな?」
これはスタッフの気持ちの持ちようでもあるのですが、 そのスタッフに必ず答を出すようにしています。 だからどんなに時間をかけてもいいと言われています。 その時間だけはすごく大事にしています。
特徴的なのは、 ディズニーランドの上司とか先輩は伝統的にそうなのですが、 何か注意や指導をするときには、必ずその指導、 注意をする相手と一対一になりなさいと言われます。 これはどうしてかというと、みんながいる前で
「おい、香取。お前最近こうだろう。こういうところ、 直した方がいいぞ。」
と言われると、その香取君にもプライドがありますから、 素直に受け入れられない、バリアができてしまうというのです。 ですから注意や指導をするときには必ず2人きりになって、
「俺はお前の最近の態度はこうこうこういうふうに感じるよ。 これは俺が感じた中ではこうこうこうした方がいいと思う。 それでお前はどう思う?」
というように指導しています。
誉めるときはより大勢の人の中で
逆に今度は誉めたりする場合です。誉めるときには、 より大勢の人の中で誉めなさいと教えられます。 時にはお客様を使いなさいとも言われます。 どういうことかというと、私が受けた中で面白かった、 嬉しかったのは、グランドサーキット・ レースウェイというゴーカートのアトラクションがありますが、 あそこで働いている時です。
あそこのアトラクションの前にエンジンの載っていないディスプレ イのレースカーがあります。 まだ身長が足りなくて乗れない小さなお子様たちが、 そこに乗って写真を撮ったりするようなディスプレイの車が出てい ます。それを毎朝ワックスをかけてピカピカに磨くのです。 それを自分たちでやります。
ある時、僕はその担当になりました。ピカピカに磨いていました。 そこに責任者の白さんという人が来て、
「おお! 香取、いいね! ピカピカだね!」
と誉めてくれるのです。でもちょっと恥ずかしいので
「もういいですよ、白さん。そんなに言わなくたって、 ちゃんとやっていますから・・・。」
「すごいね、ピカピカ! いいよ! お客さんが来たら、 このレースカーを見て絶対に写真を撮っていってくれるよ。 それぐらいきれいだもん。よくやったね。」
と言うのです。
「白さん、そんなお世辞言わないでください。いいですよ。」
とか言っていました。
オープンした直後はビッグサンダー・マウンテンとか、 非常に人気のあるアトラクションにお客様が走って行くのですが、 オープンと同時に白さんは何をしたかというと、 その中のお客様何人かを捕まえて、
「どうも、おはようございます! お客さん、ちょっとこれ、見てください。このレースカー、 きれいでしょう。実はね、 これはそこにいる香取が今日磨いたんです。写真、 撮りたくなりません? カメラ、持ってます? じゃあ、撮ります、撮ります。どうぞ、どうぞ。じゃあ、 そこに座ってもらって・・・。お客様、香取も一緒に・・・。 磨いたから、いいですか? 香取、ちょっとお前、立って、立って。はい、ニッコリ笑って!」
とか言って撮ってくれるのです。その後、僕の所に来て、
「な? 嬉しそうだったろう?」
とか言うのです。そこまでされてわざとらしいなと思いましたが、 お客様も笑顔でしたし、でもやっぱりそういうふうにされて、 これって結構嬉しいなと思っていました。
そんなふうにして、ディズニーランドの中では指導、 それから誉めたりというのを使い分けてやっています。
一生の思い出・・・
( 病気で亡くなってしまったタカシ君にとっては一生の思い出だった )
これからするお話は、その中で初めてお客様の声を聞いて、 自分が変わるきっかけになったエピソードです。
シンデレラミステリーツアーというのはどういうアトラクションか というと、お城の中を約20分間、 私たちガイドが30人ぐらいのお客様を連れて歩いて冒険するアト ラクションです。シンデレラ城なのですが、 シンデレラは出てきません。魔法の鏡とか、 毒リンゴを持ったおばあちゃんとか、 悪い奴しか出てこないのです。お城の地下室とかを入って、 最後に悪の大王が出てきて、それをみんなでやっつけよう、 善は悪に勝つんだということを証明するということがテーマのアト ラクションです。
そのアトラクションのトレーニング中に読んでいました。 いろいろな話があって、 クレームの所ではやはり考えさせられました。 そして称賛の所に移ってこうやって見ていると、 やはり嬉しいのです。自分のことではありませんが、 すげぇなと思ったり、 やっていて良かったなと思いながら見ていました。 そしてある手紙をめくりました。実はその手紙は、 ある家族のお母さんが書いてくださいました。
「実は先日、東京ディズニーランドに遊びに行きました。 非常に楽しい思い出を作ることができました。 ありがとうございました」というような書き出しでした。「 中でも最後に行ったシンデレラ城ミステリーツアーは、 私たちにとって本当に忘れられない思い出になりました。」 家族構成が書いてあり、お父さん、お母さん、 そしてそのお子さんの3人家族でした。そのお子さんの名前を、 仮名ですが、タカシ君といいます。5歳の男の子だそうです。
実はこのタカシ君は生まれた時から病気を持っていて、 5歳になるのですが、生まれてから5歳になるまで、 入退院をずっと繰り返しているようなお子さんだったそうです。 ある時、 病院の先生にそのお父さんとお母さんが呼ばれるわけです。 そしてタカシ君について説明されたそうです。 そこで先生から余命宣告をされるのです。
「タカシ君の病気はこうで、今の医学はこうです。 だからあともって半年かもしれません。」
それを聞いて、お父さん、お母さんは非常に悩みました。 もっと良い方法があるんじゃないか、または良い病院はないかな。 でもなかなかそれが治るという事例はなかったそうです。
もし、先生が言うようにあと半年がリミットだとしたら、 私たちはタカシに何をしてあげられるのだろう。 お父さんとお母さんは話し合って、タカシ君がやりたいこと、 したいこと、 タカシ君が望むことを全てさせてあげようと考えたそうです。 それからお父さん、 お母さんは事あるごとにタカシ君の所へ行って、
「何か欲しい物ある?」
とか
「何か食べたいものない?」
と聞いていたのです。
ある時お母さんが
「どこか行きたい所ある?」
と聞いたそうです。
「ディズニーランドに行きたい!」
と行ったそうです。きっと行ったことはないけれど、 病室のベッドで、テレビや何かで見ていたのでしょう。お父さん、 お母さんは分かったと先生にお願いをしに行ったそうです。
最初の頃は先生になかなかOKは出してもらえなかったそうです。 ですがお父さん、お母さんの気持ちを聞いて、やっと何度目かで、 条件付きではありますが、 ディズニーランドに行ってもいいですよと許可をくれたそうです。
いよいよ当日になってディズニーランドに遊びに来てくれました。 タカシ君はすごく喜んでくれて、 きっと家族3人の旅行は生まれて初めてだったと思いますが、 そんなふうにしてディズニーランドに遊びに来てくれました。
「中でも最後に行ったシンデレラ城ミステリーツアーは、 本当に忘れられない思い出になりました」と書いてあるのです。 シンデレラ城ミステリーツアーというアトラクションは真っ暗な中 を歩いていきますから、 5歳の男の子にとってはちょっと怖いのです。
もちろんその時のガイドも、 タカシ君が病気だなんてことは全然分かりません、 知らされていません。写真も入っていて、写真も見たのですが、 見た目には普通の男の子と全然変わらないのです。
シンデレラ城の中を、怖~いと言いながら、 お父さんに抱っこされてついて行きました。そして最後、 クライマックスのシーンで、
「次の部屋に悪の大王がいます。これが最後の決戦です!」
とガイドがナレーションを言うわけです。
「この中に勇気と善意と純粋な心のある人がいれば、 その人が伝説の光の剣を持てば、 きっと悪はやっつけられるはずです! どなたか、手伝ってくれませんか?」
とガイドが言うのです。 その時にタカシ君が恥ずかしながらも手を挙げたそうです。 それでガイドが
「じゃあ、僕、手伝ってくれる? お名前は?」
「タカシです。」
「OK! じゃあ、もしものことがあったら、 みんなタカシ君を応援しましょう!」
と言ってクライマックスのシーンに入っていきました。
セオリーどおり、悪の大王が出てきて、 クライマックスで光の剣を持って、みんなも応援して、 タカシ君とガイドが一緒にやっつけるわけです。 そして悪い奴をやっつけた。
次の部屋に行って、悪い奴をやっつけたお礼にということで、 東京ディズニーランドから記念のヒーローメダルというのを差し上 げます。
「手伝ってくれたタカシ君、ありがとう!」 とヒーローメダルを下げたのでしょう。そうしたらそのタカシ君、 お母さんの話では、 そのヒーローメダルを貰ってすごく喜んでくれたそうなのです。 本当に嬉しそうだったと。シンデレラ城を出る時も、 そしてまたディズニーランドを出た後も、病院に帰ってからも、 タカシ君はそのメダルをずっと首からぶらさげていたそうなのです 。僕は嬉しいななんて思いました。
病院に帰ってからも、その病院の先生や看護婦さん、 お見舞いに来る人がいれば、 それをずっと見せびらかしていたそうです。
「見て、見て! これね、この間、 僕東京ディズニーランドで悪い奴をやっつけちゃったの! だから病気だってやっつけちゃうぜ!」
と自慢していたそうです。 そんなふうに喜んでいてくれていたそうです。ですが、 残念ながら半年後、 タカシ君が天国に行ってしまったということなのです。
そのお母さんの手紙の最後に書いてあったのが、「 タカシは5歳ということで他の人に比べたら短い一生だったのかも しれません。ただ、その短い一生の中でも、 先日東京ディズニーランドに家族3人で遊びに行ったあの思い出は 、私たち家族にとっても、 多分タカシにとっても一生の思い出にすることができました。 本当にありがとうございました。」
☆ 東京ディズニーランドで働く私たちの敵は「慣れ」
「非日常的な空間を演出するはずが、いつのまにか日常に・・・」
僕はそれを読んだ時、今までの自分を振り返ってみた時に、 正直言ってすごく怖くなったのです。どういうことかというと、 東京ディズニーランドの中では非現実的な世界を演出しています。 お客様の夢をかなえてあげようということで演出しています。
ですが、 いつからかだんだん手を抜くことを覚えていました。 本当は非日常を演出しなければいけないのに、 自分にとっては日常になってくるのです。朝起きて、歯を磨いて、 飯を食って、電車に乗って出勤して、タイムカードを押して、 着替えて・・・。これが毎日毎日になってくると、 本当は非日常を演出しなければならないのに、 日常になってきてしまったのです。
ですから、正直言うと自分は手を抜いていた瞬間もありました。 だからこの手紙を読んだ時、すごく心がキュンとなりました。
ただその時もう一つ感じたのは、 だけど僕らがやっている仕事というのはすごくやりがいのある仕事 だなということも感じました。今、 目の前にいる人に一生懸命になることで、 僕らも一生の思い出を作るお手伝いができるんだなということを思 いました。
ですからそこからだんだんと自分自身の使命感というか、おれ、 これやらなきゃ、というのと、 頑張ってやるぞという思いがだんだんと芽生えた良いきっかけにな りました。
働くスタッフの一人ひとりの気持ちが大事
ディズニーマジック、 ディズニーマジックとさっきから話していますが、 それを作り出しているのは結局私たち人間なのです。 スタッフです。どんなに機械が進んでも、 お客様のハートに訴えかけられるのは多分自分たちスタッフしかい ないと思います。人間しかできないのだと思うのです。
ちなみに、ご存知だと思いますが、 東京ディズニーランドの中には自動販売機は1つもありません。 タバコを買うにもレジでスタッフが売っています。 なぜかというと、それは、 私たちが伝えたいことはやはり人でしか伝わらないのではないかと 考えているからだそうです。 効率を考えれば機械の方が良いのです。間違えないし、 人件費もかかりません。最初の初期投資だけです。 ランニングはあまりかかりません。
だから考えてみたら発券機、 例えばディズニーランドの入り口の所でチケットを売っている人が いますが、あれだってJRのようにして、 大人1枚とかピッと押すと、ビヨーンと出てくれば、 いちばん間違えないし、お客様も効率良く並ばないで済むし、 いいんじゃないかなと思うのです。
大事なことは、 やはり人と人が一緒になってコミュニケーションをとることで、 一緒になって感動できたり、思い出を作ることができる。 これがディズニーマジックの本来の姿なのかなというようなことを 私の体験の中から感じました。
多分これは小売店でも、今、 私が顧問先で回っている所もそうですが、同じだなと思いました。 今、自分がお手伝いをしている所で言うと、ナルミヤ・ インターナショナルさんという子供服を作っている会社があります 。そこの人たちとよくいろいろ話すのですが、そこも同じです。
ただ、従業員一人ひとりがいきいき働いています。 それはなぜかというと、 洋服を売っているとは思っていないからです。結局、 子供たちの夢をかなえてあげていると思っています。 子供たちがきれいになったり、元気になったり、 自分の大好きな服を着たい、その夢がきっとあるはずです。 その夢に私たちは洋服で応えている。 要するにその子供たちの夢を実現してあげているんだと誇りを持っ て、使命感を持ってやっています。
ですからイベントでも、ちょっと面白いですが、 プロのカメラマンを呼んだり、プロのメーキャップを呼んで、 ナルミヤの服を着て来てくれた子供たちを対象にメーキャップをし てあげて、 プロのカメラマンがポーズをつけて写真を撮ってあげたりしていま す。そんなふうにして、すごく喜んで帰るのです。
しかし洋服は非常に高いです。すごくいい商売をしているな、 最初は、傍から見たときはそう思いました。でも現場に行くと、 本当にみなさん気持ち良く買って行ってくれるのです。 家に帰って後悔している人もいるかもしれませんが、 現場では本当に気持ち良く買ってくれます。 そして子供たちもすごく元気になっています。
やはり大事なのは、そこで働くスタッフ一人ひとりの気持ちです。 何を大事に思っているかなのかなと思いました。
「新鮮さと技術」
「感動を呼ぶサービス」と定義づけたときに、 どういうふうに表したらいいかなと自分なりに考えてみました。 僕の経験の中でこうじゃないかなと思うのは、 例えばさっきもちょっとお話ししましたが、図で表すとしたら、 仮に縦軸と横軸があったとして、縦軸が鮮度です。
これは単純に松井選手やイチロー選手を見て感じました。 あの人たちって、毎日野球をやっているじゃないですか。 あの人たちは毎日野球をやっていますが、 毎試合すごく一生懸命やっています。
多分サービスもこうじゃないかなと思いました。 入社をした当時は、技術は覚えていないじゃないですか。 始めたばかりだから新鮮さは高いのです。鮮度は高い。 でもまだ技術はない。棒グラフみたいな、 こんな突っ立った状態です。 これが時間を追うごとに技術を少しずつ少しずつ覚えていって、 鮮度も保ってこうやって横に面積を広げていければいいのだと思う のです。
自分のことで考えてみると、 時間が経つにつれて技術は覚えるのですが、 スキルに走ってしまって、その分鮮度を失うみたいな、 気がついたらこれが単純にパタンと倒れただけという感じです。 これは面積が変わらないので、だめだなと思うのです。
先程言ったように、技術というのは毎日行うことで、 それは訓練ですからどんどんうまくなっていくと僕は思っています 。ですが鮮度というのはなかなか難しいなと思うのです。 今振り返っても、
「じゃあ、香取君、入社した時と今、鮮度はどれぐらい? 書いてみな。」
と言われたら、ちょっとごめんなさい・・・、という感じです。
どのように鮮度を高めていくか
それではどうやって鮮度を高めていくかというところでお話をする と、ディズニーランドの中では、いつもいつも原点に返る、 原点に返ってリセットしてくれるという仕組みが1つあります。 それはどういうことかというと、毎日高い鮮度を保つために、 昨日あった良い出来事、良い話を、 翌日には全スタッフが知っているというようなことを実施していま す。
仕組みは簡単です。昨日あった出来事が、多分どこかで、 インフォメーションセンターか何かで取捨選択されるのでしょう。 そこから朝礼用のFAX、朝礼シートみたいなものが、 アトラクション40何個かありますが、 そこへみんな送信されるわけです。責任者はそれを見て、 今日はこれを伝えなきゃいけないんだと話をするのです。 ですから朝礼を受けた人たちは全員、 昨日あった出来事を知っているのです。その時、 昨日あった良い話とか、感動的な話が伝わります。
例えば僕が印象的だったのは、
「実は昨日ね、センターストリート・ コーヒーハウスというレストランでこんなことがあったんだって。 」
責任者が朝礼で話します。 ある夫婦がディズニーランドのレストランに来た。 いつものようにスタッフが
「ご注文はお決まりですか?」
と聞きに行った。
「じゃあ、これとこれとお子様ランチ。」
と頼んだ。その時にそのスタッフがあれ? と思ってお客様に言ったそうです。 一応手順としてはそうなっていますから、
「すみません、お客様。 お子様ランチは12歳以下のお子様限定のメニューなのです。」
と言った。そうしたらお母さんの方が
「ごめんなさいね、すみません。つい口がすべっちゃって・・・。 変なことを頼んでごめんね。実は今日は息子の命日だったの。 だから3人で遊びに来たと思って、 ちょっとご飯でも食べようかなって思っちゃったの。ごめんね、 無理よね。いいわ、いいわ。」
と言ったそうです。
それを聞いてスタッフはすぐにマネージャーの所に飛んでいきまし た。
「実は今、お客様にこうこうこういうふうに言ったら、 こんなふうに言われました。 何とかしてお子様ランチを出してあげたいんですけど・・・。」
「うん、そうか。OK、分かった。俺がOKを出そう。 もしこれで後でだめだと言われたら、俺が責任を持つ。いいよ、 お子様ランチぐらい千いくらだから、俺が払ってもいい。 とにかく注文を通そう。」
と言って、そのマネージャーが判断して注文を通したそうです。 本当は手順的にはそれはノーなのです。ルールとしてはだめです。 だけど、 その時にお客様のことを思ったスタッフのことを思ってマネージャ ーはOKしたのでしょう。
注文が出ました。 そこがまたマネージャーが泣かせるなと思います。 多分僕だったら「OK、じゃあ俺、これ、運んでくるから」 と自分で行っちゃうと思うのですが、 そこがうまいなと思いますが、その言ったスタッフを呼んで、
「これ、用意したから、お前、行って来い。」
とそのスタッフに運ばせたのです。
そしてそのスタッフがお客様の前に行って
「お待たせしました。お子様ランチ、ここに置きますね。」
とびっくりしたところに間髪入れずに、 そのスタッフが大人用の椅子をすぐに子供用に差し替えてさしあげ た。そうしたらそのお客様が本当に喜んでくれたそうです。
そして帰り際に、 本当に深々と頭を下げてインフォメーションセンターに寄ってくれ て、この話が分かったのです。
「本当にありがとうございました。 本来だったら多分こんなことは無理なのでしょうが、 私のわがままをよく聞いてくれました。 心の声をよく聞いてくれました。本当にありがとうございます。」 と言って帰ってくれたそうです。
「昨日、こんなことがあったんだってさ」
と話をします。その時にリーダーシップが自分の思いを伝えます。
「この話を朝読んで、俺がそこのリーダー、 マネージャーだったら、この判断ができたかなと思うよ。 これはすげぇよ。これこそディズニーっぽいな。でもさ、 今日もそういうお客様がいるかもしれない。 特別な対応をしろとは言っていない。ただ、その思いが分かって、 お客様の心の声が聞けたときには、どんどん俺に言ってくれ。 俺たちもこうやってお客様の気持ちに応えるサービスをしような! 」
と朝礼が終わります。そんなふうにして、 リーダーが熱く話すのです。
そうすると受けている自分たちは、朝出勤してきて、だりぃな、 朝早いしな・・・、昨日飲み過ぎたとか、出勤してきた中で、 こんなことがあったんだってといったときに、やばい、やばい、 そうだ、ちょっと原点に戻ろう、俺らにとっては日常でも、 今日初めて来る人もいるかもしれない。 だったらやっぱり初心に戻らなきゃということで、 原点を確認してリセットされるのです。
「私たちが目指す感動を呼ぶサービス」
同時に、自分の中に感動するサービスとか、 ディズニーっぽいサービスの引き出しができます。 僕はこれがディズニーの文化を作っていると思います。 生きたストーリー、本当にあった出来事をベースに、 それを言葉としてリーダーがこうして伝えてくるのです。 それが自分の中に、自分もそうですが、 周りにいるみんなが共通して持ちます。 それがだんだんとそういう雰囲気を作っていくのだと思うのです。
さっき言ったストライクゾーンです。どこがストライクゾーンか。 ここに投げたらOKだよ。これがディズニー、 というストライクゾーンというのは言葉で表すのはなかなか難しい かもしれませんが、そういった、この話すごいでしょう、 こんなことがあったんだってということでだんだん見えてくるとい うのですか。 そして自分たちも引き出しをいっぱい持つようになります。さあ、 自分の番になったときに、どれを使おうかなとなれるのです。 そんなふうにして感動を呼ぶサービス、 マニュアルを超えたところでどうやってサービスするかというのが 生まれてきました。
今、パークの中でやっているお誕生日シールなんかもそうです。 悪用しないでくださいね、 本当にお誕生日の人はお誕生日と言ってください。 今は手順としてありますが、それも以前、 1人のスタッフが始めたのです。 キャストとお客様がコミュニケーションをとっている中で、
「実は今日、この子の誕生日なの。」
ということが聞けたのです。それで
「そうなんだ、おめでとう!」
と言って、これをどうにかしてびっくりさせようとしました。 話の中で
「次はどのアトラクションに行くんですか?」
とか聞きながら、その情報をもらって
「分かりました。次はスプラッシュ・マウンテンに行くんですね。 楽しんでいってくださいね。じゃあ、バイバイ!」
と見送った後に、そのスタッフが内線でスプラッシュ・ マウンテンに電話するのです。
「今ね、何々さんという4人連れの人が行くの。 お子さんが緑の帽子と青いTシャツ。それと半ズボン。 この子が今日誕生日なんだって。来たらさ、 おめでとうって言ってみて。すげぇびっくりするから。じゃあね」
と言って切るのです。
それ受けたスタッフが、それ、面白いねと待っていている。あ、 何々さんだ!
「何とかちゃんでしょう? お誕生日おめでとう!」
「え~!」
すごいびっくりした顔を見て、嬉しいなと。 そしてまた会話をして、どこに行くんですかと聞く。
それをみんながやり始めたのです。 これは結構嬉しいということがみんなが分かって、 だったら働いている従業員にしか分からない、 誕生日シールというのを作ろうということになりました。 ミッキーの顔が書いてあって、色を統一して・・・。 どのシールかというのは従業員しか知りません。
「おめでとう!」
とか、または
「今日誕生日なの? ちょっと待ってて。」
と従業員を集めてみんなでハッピーバースデーを歌ってあげたりし ます。 そんなようなことを今は手順としてしっかりできるようになりまし たが、最初は手順にはありませんでした。
なぜそういうのが生まれるかというと、さっき言ったような、 お客様が本当に喜んでくれた事例とか、 本当に感動いて帰ってくれた事例、ドラマみたいなことを、 いつもいつも、ある度にリーダーが語ってくれるのです。 だからだんだんと応用が利いてきます。
ですからディズニーランドにはすごく素晴らしいマニュアルがある んじゃないですかとよく聞かれるのですが、僕はキャストの頃、 一般スタッフの頃はマニュアルなんて見たことがありません。 どう教えるか、手順をちゃんと確認しなければいけないので、 マニュアルはトレーナーが見るものだと習いました。 教える側が見るのです。 教わる側が見るものではないと言っていました。 教える側がそのマニュアルを見て、それを覚えて教える。 そして徹底するというふうにしています。
自分がトレーナーになった時に初めてマニュアルを見ましたが、 非常につまらなかったです。僕も、 すげぇマニュアルだろうなと夢を抱いていたのです。
見たら、 何のことはありません。取り扱い説明書みたいです。SOP、 スタンダード・オペレーション・プロシージャーといって、 日本語では標準作業指導書となります。それは単純に、 ボートを発車するときには何を確認して、 そのときにそれがOKであれば緑色のランプが点滅する。 点灯に変わったらこの赤のボタンを押す。 そんなふうなことしか書いてありません。
それをいかにして、 どう伝えていくかというのがトレーナーの役割です。
「ここのときにこれが大事でしょう。何でか分かる? 何でだと思う?」
と一緒になって、クイズを出し合ったり、 みたいな感じで教えていきます。
ちょっと話がそれましたが、 私たちが目指す感動を呼ぶサービスというのは、 まずはやはり鮮度をすごく大事にしようということです。 ディズニーランドの中でも「毎日が初演」という言葉があります。
鮮度を上げる仕組みとしては、 いつもいつも先輩たちが朝礼などで語ってくれていますが、 自分ではどうかということです。
自分個人のモチベーションです。 モチベーション、モチベーションと最近よく言われますが、 大事だなと思うのは、好きなことにこだわったりすること、 そのこだわっていることに情熱を燃やして、 それに向かって一生懸命やることというのが鮮度を上げる1つなの ではないかと思います。 人間何にでも集中している時というのはすごく真剣です。 だけど慣れてしまったときに、鮮度がシュ~ ンとなってしまいます。
ですから僕が思うのは、鮮度を保つためにはやはり情熱とか、 自分のこだわりとか、好きなこととか、夢とか、 何でもいいですが、 そういったものを持ち続けることがすごく大事だろうなと思います 。
☆夢を現実にする男
そして夢やこだわり、こうなりたいという目標は、 思えば必ず叶うということを自分の友達から学びました。 最後にその友達の話をして終わろうと思います。
その友達というのは、本名をカガヤ君といいます。 最初に彼と出会ったのは僕が18歳の頃でした。 彼も18歳でした。東京ディズニーランド、 シンデレラ城ミステリーツアーというアトラクションで出会いまし た。
カガヤ君ってちょっと変わっているのです。 どう変わっているかというと18歳の男の子なのですが、 ディズニー大好きなのです。私服になると分かります。 全身ディズニーなのです。ちょっと気持ち悪かったです。 見てくれはどんな感じかというと、 カールおじさんっているじゃないですか。カールおじさん、 カールのキャラクターです。カールおじさんみたいな感じで、 着る服が全部ミッキーです。帽子もミッキー、 Tシャツもミッキー、そんな感じでした。最初会った時は、 正直言うと、こいつ、気持ち悪いなと思っていました。
「お前さ、どうしてそんなにディズニーが好きなの?」
とかいろいろ話すようになりました。
「お前は何でディズニーランドで働こうと思ったの?」
と僕が聞いたら、そうしたら彼がこう言いました。
「俺ね、 子供の頃からディズニーランドに行って乗り物に乗ってて、 ディズニーランドの乗り物のお兄さんになりたい、 この乗り物を運転してみたいと思ったんだ。」
「そうなんだ、なるほどね。じゃあ、今、幸せだね。」
と言ったら
「うん、幸せ!」
とか話していました。
「それで何のアトラクションが好きなの?」
と言ったら
「俺が好きなのはね、あと2年後にできるスプラッシュ・ マウンテン。」
それは90年の頃ですからまだできていなかったのです。
「スプラッシュ・マウンテンって何? また、山できんの?」
僕は全然知りませんでした。 そうしたら彼の言ったとおりプレス発表があって、スプラッシュ・ マウンテンというのができると発表されました。すげぇ、 やっぱマニアってすげぇなとか思っていました。
プレス発表が終わった後、工事が始まりました。 基礎工事から始まります。 そうしたら彼の行動がいよいよ怪しくなってくるのです。 早番で仕事が終わります。そうしたら彼は誰よりも早く私服、 さっきのミッキー、ミッキー、ミッキーに着替え、右手にビデオ、 左手に普通のカメラを持って、一回従業員の出口を出ます。 そしてディズニーランドの入り口に回り、 毎日入場券を買って入ってくるのです。
「お前、 毎日、毎日何やってんの?」
「いや、スプラッシュ・マウンテンの工事が始まったでしょう。 俺ね、それ、撮ろうと思ってさ、毎日行って記録してんの。」
と言うのです。
「何? 工事現場撮ってんの?」
「そう。」
マニアックだなと思いました。
「でもそうは言ってもさ、 工事現場っていったって仮囲いがしてあるから、 基礎工事の所なんかは撮れないじゃん。見えないじゃん。」
「スプラッシュ・ マウンテンの隣にアメリカ川という川が流れているでしょう。 あそこにマークトウェイン号っていう蒸気船があるんだ。 あの蒸気船、3階建てじゃない。だから3階のデッキに上ると、 最後の1分30秒、上から撮れるの。」
と言うのです。
ますますマニアックになってきたなと思いました。 ちょっと気持ち悪かったのですが・・・。でもそれを毎日毎日、 出来上がるまで続けるのです。 好きなのってすごいなと思っていました。
休みがたまたまみんなで一緒になったので、 みんなでバーベキューをやろうということになりました。
「おい、カガヤ。みんなでバーベキューをやるから、 お前も来いよ。」
と話をしたのです。どうせ友達いないから・・・。 そうしたらあいつ、断りやがったのです。「ごめん、 その日はどうしても用事があるから行けない。」
「なんでだよ? せっかく誘ってやったのに。」
と言ったら、
「スプラッシュ・ マウンテンの乗り物を作っている工場が静岡にあって、 実はその日、そこで実物大の落下実験をやるらしいんだよ。」
「まさか・・・?」
「そう、俺、行くの。」
「行くのって、別にお前呼ばれていないんだろう?」
「うん、呼ばれてない。趣味だから。」
「でも工場だから撮れないんじゃないの?」
「いや、実物大だから、近くに行けば絶対に見えるって。 だから何とかして撮ってくるからさ。」
なんて言って行ってしまったのです。
そして帰ってきてビデオを見せてくれました。そうしたら、 あいつ、まんまとちゃんと真中で、工場の中で撮っているのです。
「これ、どうしたんだ?」
と聞いたら、答は簡単でした。考えてみれば分かるのですが、 横の道で、全身ミッキーの奴がビデオカメラを設置して、 今か今かと待っているわけですから、そりゃ見つかります。 それで見つかったんですって。彼は一生懸命、
「ごめんなさい。でも僕は怪しい者じゃない。 僕はディズニーランドでもアルバイトしてるし、 僕はこのアトラクションができた時にここで働くのが夢なんです。 だからできていく過程を撮ろうと思って・・・。」
と言ったら、工事現場のおじさんが
「だったら入れ」
と、本当は関係者以外入れないのですが、 彼は入れてもらえたのです。それで撮ってきた。
今度はスプラッシュ・マウンテンのオープン間近の時、 見せたい物があると彼が僕を家に呼びました。ぼろいアパート、 6帖一間です。そこに友達と連れていかれました。
「おい、カガヤ、入るぞ!」
と言って入りました。びっくりしました。
「見て、見て!」
ガラッと開けたら、 彼の6帖一間の3分の2を使って模型ができているのです。
「うわぁ~! 何、これ?」
「これね、見せたかったんだよ。見て、見て! これ、開くの。」
開くの、どうでもいいよ、みたいな・・・。
「どうしたの、これ?」
って聞いたら作ったんだというのです。自分で作っていますから、 そんなにうまくはありません。割り箸とか楊枝とか、半紙とか、 そんなんで一生懸命作っているのです。
「これ、どうしたんだ?」
と聞いたら、
「実はね、僕、工事現場のおじさんたちと仲良くなって、 自分で設計図描いた。」
と言うのです。アルバイトですから、 設計図なんて見れるわけがないのです。 逆に見たら捕まってしまいます。だから彼はどうしたかというと、 工事をしている所で工事現場のおじさんたちと仲良くなるのです。 そして
「おじさんさ、どこの工事してんの?」
「おじさんか? おじさんは最後、落っこちる所、ドロップがあるだろう。 あそこのレールを作ってるんだよ。」
「へぇ~、そう。あそこってさ、進入角度って大体何度?」
「45度だ。」
「へぇ~。」
45度と書く。彼は自分なりにいろいろな情報を聞いて、 それを自分の家に持って帰って、 大好きだから雑誌などそんなものを見ながら、 自分で予想しながら作っていってしまうのです。
その作った模型で、彼自身がシュミレーションしています。 もういやというほど全部知っているわけです。 ですからいよいよ社内公募で、誰かオープニングスタッフ、 やりたい人?といった時、600人ぐらい手を挙げて、 その内在籍で120人ぐらい採ったらしいですが、 その中で彼は1番に選ばれるのです。 もう誰よりも知っていますから・・・。彼が選ばれて、
「お前、良かったな、夢がかなって。」
という話をよくしていました。
3ヶ月ぐらい経って、彼とまた会うことがありました。
「おい、カガヤさぁ、お前、今、人生バラ色だろう? 楽しくてしょうがねぇだろう?」と言ったら
「楽しいね。でもね、俺ね、今度は違う夢ができた。俺ね、 今度はアメリカに行って、アメリカのスプラッシュ・ マウンテンをやりたい。」
と言い出したのです。
「なんで?」
「いや、アメリカは日本と反対回りだ。」
「反対だってどっちでもいいんじゃないか?」
「いや、違うんだよ。本場は違うんだ。」
僕はその時、止めました。
「そうは言ったって、お前も俺も英語しゃべれないだろう。 だからアメリカに行ったって、そんなのできねぇよ。それに、 俺たちアルバイトだから、 向こうに行って働かせてくれなんて絶対無理だよ。前例ねぇもん。 そんなの、無理だぜ。」
「でもね、何とかするんだ。何とかしたいんだよね。何とかする、 何とかする。」
と行ってしまうのです。
それから3年ぐらい経った時、彼から電話がかかってきました。 彼が電話で
「俺ね、来週から1年半、アメリカに行くことになった。」
と言うのです。僕はその時、彼の夢なんて忘れていましたから、
「え? 何? 遊びに行くの?」
「ほら、言っていたでしょう、スプラッシュ・マウンテン、 やりたい、やりたいって・・・。」
「あ、そういえば言っていたな。」
「あれがもしかしたら叶うの。」
「え? お前、3年間諦めてなかったの?」
「そう!」
「ちょっと待って。話、聞かせてよ」
と彼の所に行って話を聞きました。
そうしたらすごかったです。彼は3年間、 諦めていなかったのです。 どういうふうにしてその夢を勝ち取ったかというと、 まず最初に英語を覚えなきゃいけないと思って、 英会話をやろうとしました。 だけど金がないのでどうしようと考えた時、そうだ、 友達を作ろうと思ったのです。そこまでは普通です。
彼は「 友達になってください」という英語だけ辞書を引いて書いて、 ディズニーランドの中にはシンデレラとかピーターパンとか外人が いっぱいいますから、その人たちが休憩している所に行って、 友達になってくれ、友達になってくれ、と毎日行くのです。 最初は気持ち悪いので、あっち行けとやられていましたが、 そのうちだんだん仲良くなっていくのです。 そして少しずつ英会話でコミュニケーションがとれるようになって きました。
でも、 アメリカで働くためには何か情報を得なければいけないので、 そうだ、友達を作ろうと彼は思いました。 それで彼はどうしたかというと、ロスに友達を作りにいくのです。 彼のやり方が面白いのです。
「どうしてアメリカの友達を作ろうと思ったの?」
と聞くと、彼曰く
「日本に俺みたいな奴がいるんだったら、 多分アメリカにもアメリカ版の俺みたいな奴がいる。 そいつを見つけ出したら、お互いに情報を交換できるし、 英語も覚えられるし、絶対いるはずだ。」
と思って行ったのだそうです。
そしてどうやって見つけたかというと、「Tokyo Disneyland」、「Tokyo」 と入っているディズニーのお土産、缶バッジとかステッカーとか、 いろいろな物がありますが、 あれをパッケージの中にすごく詰め込んでアメリカに行くのです。
「お前、東京から来たのか?」
と声をかけられた人に、
「そうなんだ、東京から来たんだ。これ、欲しい? じゃあ、友達になって。文通しよう!」
とか言って、コミュニケーションをとるのです。
でも神様がいるんです。本当に偶然、偶然というか運命です。 彼がパレードを見るのに座って待っていました。そうしたら、 本当に運命的な出会いですが、 アメリカ版のカガヤ君が座ったのです。本当です。 アメリカ版のカガヤ君の名前はスコット君といって、 ディズニーのアニメーターでした。 そのスコット君は本当にカガヤ君と一緒で、 同じようにディズニーが大好きなのです。
「何だ、そのバッジ? 東京なのか?」
「そうなんだ! 僕、東京なんだ!」
その時は辞書片手に。
彼は友達を作るとはなからそれを信じて疑わないですから、 当然英語の辞書は和英と英和と2つ持って行っています。 それでそれを相手に渡してコミュニケーションをとったそうです。 僕はこっちで働きたいんだということを言って、 それで文通をしたり、 国際電話をするように友達になっていくのです。
実はそのスコット君が情報をくれたのです。
「 今のままディズニーランドでアルバイトをしていてもこっちには来 れないよ。だって会社が違うでしょう。」
そうなんです。 東京ディズニーランドはオリエンタルランドという会社が、 言ってみればフランチャイズみたいにやっています。 ですからそこにいてもアメリカには行けません。
だからその当時スコット君は、 ディズニーストアに行けと教えてくれたそうです。
「ディズニーストアに行ってそこで社員になったら、1年半、 フロリダのディズニーワールドの中で働くプログラムがある。 社員だったらその試験が受けられるから、 試験を受けて受かったら、それで行けるぞ。」
と言われ、それで彼は転職をするのです。
ですが、最初にディズニーストアに入った時はアルバイトでした。 そこから一生懸命、社員にならせてくれ、 社員にならせてくれと頑張ってやるのです。 そしてやっと社員になった時に、 そのプログラムがあるということを教えてもらって、 そこから猛勉強するのです。全部試験は英語なので、 読み書きもできないといけません。
だけど高校も中学もちゃんと勉強したわけではないので、 教科書があってもどう勉強していいか分からないのです。 それで彼が最初にやったのは、もう時間がないし、 しょうがないと思って、 その6年分の教科書を丸写ししたそうです。辞書片手に、 もうとにかく丸写し。それを半年間かけて、 全部で6回やったそうです。
僕、ノートを見せてもらいました。こんなにありました。彼曰く、
「大体6回ぐらいやれば、 この単語とこの単語の時は何となくこの単語って覚えてくる。」
そういうもんなのかと思いながら聞いていましたが、 それでもちゃんと覚えました。
日本で500人ぐらい受けて2人受かるのです。 各国2人ずつです。そのプログラムに受かり、 アメリカに行くことになりました。
フロリダに行って彼は何をするかというと、 ディズニーストアです。 フロリダの中にあるマーチャンダイジング、ショップです。 ディズニーのキャラクターショップをやります。
「お前、そんなこと言ったって、 向こうへ行ったらディズニーストアだからさ、スプラッシュ・ マウンテンとかやらしてもらえないんじゃないの?」
と言ったら、また得意の
「でも、何とかする、大丈夫。」
と言って行ってしまうのです。
そしてまた何とかしてしてしまいました。手法は簡単。 直球しか投げられないから同じでした。 彼はディズニーストアで働きながら、働いていない時間、 空いている時間は全てパークに遊びに行ったそうです。 パークに遊びに行って、毎日スプラッシュ・マウンテンに通って、 そこにいるスタッフに、働かせてくれ、 働かせてくれと言ったそうです。
そうしたら1週間後ぐらいに、 ちゃんとスーパーバイザーが出てきて、そんなに働きたいのなら、 と働かせてくれたそうです。 アメリカに行ったら写真が置いてありました。 すごく嬉しそうでした。
彼は今、戻ってきて、今度は違う自分の夢のために、 飲食店を経験して、 今は東京ディズニーランドのメンテナンスをしている下請けの会社 に入りました。それも面白いのです。彼は就職する時、 就職情報誌というのを見ません。
「すみません、僕、ここで働きたいんですけど・・・。」
「うち、採ってないよ。」
「知ってます。でも、働きたいんです。」
と言って何軒か回ったそうです。それで最後回った所で、お前、 面白いなと雇ってもらったと言っていました。今、 生き生きとして働いています。
その彼を見てよく分かったことは、 彼自身が夢を持った時に諦めないのです。 彼はこんなことを言っていました。
「人間、諦めた時がゲームセットだよ。野球とかじゃないから、 夢って9回裏で終わりっていうわけじゃないし、 人から言われたからだめ、終わり、 ゲームセットというわけじゃないでしょう。 諦めなきゃいいんだよ。諦めないで続けていれば必ず叶うって。 そうやって信じてやれば、必ず何でも叶うよ。」
と言うのです。
これって多分そうなんだろうなと思いました。 何か自分の事業とかお仕事でもそうですし、 自分が持っている夢とか目標とかが途中でだめになるケースという のは、 大概自分が諦めてしまったりしているからなのかなと思います。
そういうふうにしている状態の彼を見て、新鮮さ、 鮮度というのは、やはり何かに集中して打ち込んでいる、 それが好きなものであればあるほど鮮度が高いんだろうなと感じま した。
みなさんも何でもいいと思います。 自分の事業でもお仕事でも何でも構いませんが、 カガヤ君は諦めなければ達成するみたいなことを言っていましたか ら、是非諦めずに・・・。休むのはいいと思います。 疲れたらちょっと休んでいいかなと思います。
そのカガヤ君が撮ったスプラッシュ・ マウンテンのビデオが10分くらいでまとまっているので、 それをどうしてもみんなに見せろと言っていましたから、 今日は最後にこれを見て、元気になってくれればと思います。
途中で見えちゃいけない部分もあったりしますが、 その辺は見なかったことにしてください。あと、 途中空撮とかいろいろ出てきますが、 カガヤ君がヘリを飛ばしたわけでも何でもありません。単純に、 スポンサーが日産さんなので、 日産がヘリを飛ばして撮影した映像も出てきます。 それは彼が日産の本社に行って、 貸してくれと掛け合って貸してもらったそうです。 貸す方も貸す方だと思いますが・・・。
彼のエピソードをちょっとお話しすると、 非常にポジティブなのです。例えば初詣とかに一緒に行くと、 おみくじをひくじゃないですか。2人で一緒に行ったのです。 おみくじを引いてどちらが良いか勝負をしようということなって、 おみくじを引きました。 そうしたら彼が小吉で僕が吉だったのです。彼のを見て、
「なんだ、お前、全然だめじゃないか。」
と言ったら、彼は
「じゃあいいよ、もう1回引く。」
と言うのです。
「1回までじゃないのか?」と言ったら、
「だって、1回100円としか書いてないじゃん。 1人何回までって書いてないぞ。」
もしそれが、1つの神社で1人1回までだったら、
「じゃあ、神社をはしごしよう。」
と言うのです。 自分の未来は自分で納得いくまで決めればいいでしょうという考え 方なのです。だから2人大吉が出るまで、 合計6件ぐらい回りました。そんなような彼です。
じゃあ、ちょっといってみましょうか。
(ビデオ上映)
これが実験のところです。実物大の落下実験です。 すごい良い場所で撮っています。
(ビデオ上映)
これは最初に水が入った時だそうです。 これは絶対に伝えろと言われました。
(ビデオ上映)
はい、以上でした。ありがとうございました。どうも、長い時間、 本当にありがとうございました。また、 一緒に盛り上げていきましょう。どうもありがとうございました。
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●千葉高大
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